リポランの白 貝殻の白
ル・コルビュジエのLate Styleに光をあてた展覧会「ル・コルビュジエ 諸芸術の総合 1930-1965」は、パナソニック汐留美術館にて3月23日まで。
Le Corbusier: Synthesis of the Arts 1930-1965, Panasonic Shiodome Museum of Art, 2025.
絵画、立体、緞帳、映像に至る、この時期の建築家の形態の「詩」の源にあったのは、古代神殿でも機械生産された物体でもなく、地中海の生命の形象。鑑賞者を出迎えてくれるのも、マン・レイの「ひとで」を彷彿とさせる「詩的反応を喚起するオブジェ」、ル・コルビュジエが集めたり坂倉準三に贈ったりした貝殻たち。
1930年代以降のル・コルビュジエのうってかわった芸術と、アルプやレジェらの曲線的な造形との共鳴をみせるキュレーションは、一見したところ分かりやすく、色彩も響き合う。けれども、ル・コルビュジエの建築写真(ルシアン・エルヴェによる)とカンディンスキーのリトグラフやドライポイントを縦に並べて対照させる展示には、すんなりと見てただ通り過ぎていくのをはばむようなところがあった。
色とりどりの展示室の狭路を縫うように進み、夢中になる鑑賞者たち。なにかしら、引っかかるもの。監修者のエッセイによれば、それはモダニズムにおける「総合」とは何かという問いかけである。
ル・コルビュジエの名は、しばらく前に読んだ小説、長者町岬の『アフリカの女』の中にも登場する。主人公は、およそ一世紀前のパリで美術商を営む日本人。1925年のアール・デコ博覧会はもちろんのこと、竣工まもないサヴォア邸を訪ねたこともあるというフィクション。フランスと日本の、資本主義と蒐集趣味、アール・ヌーヴォーからアール・デコの時代の装飾芸術をめぐるおしゃべりは、独自の「ブルジョワ」論にも、オリエンタリズム論ともなっている。
大西洋横断中の船上での洒落た会話からなる小説は、ル・コルビュジエの芸術思想への、100年越しの応答なのかもしれない。