若冲のラッコ

 丸の内は秋晴れ。今の帝劇ビルでの有終の美をかざる、出光美術館の「物、ものを呼ぶー伴大納言絵巻から若冲へ」展

 春の「池大雅 陽光の山水」展も記憶にあたらしい。ここでは、のびやかな淡彩の文人画という、ひとつの世界があるのをおそわるのが、なによりもすばらしい。

 しだいに集められた美術コレクションが、感性やヒューマニズムのありようを伝える、美しいもの尽くしとなるまでの、時の流れ。

 《江戸名所図屏風》の手前に、上野、不忍池の辺りから、増上寺、芝浦までの、大きめの図解パネルが並置してあるのがうれしい。藍色の画中の楽園につどう、若冲の《鳥獣花木図屏風》の動物たちの絵解きは、図録に。かなり似通って見えた、三匹の可愛い茶色の平たいいきものが、イタチ、カワウソ、ラッコであったとは。
 屏風の中の江戸に息づく人びとにも似て、美をめでる人たちで賑わっていた。お茶を一服、お濠端の碧空を眺め、名残惜しそうに、あたらしい門出を楽しみに。

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