リスとぶどう棚
富士山へ行く高揚感にみちた旅びとたちであふれるホームから、特急かいじ号に乗って甲府へ。山梨で生まれたり制作をおこなった大正・昭和の画家たちによる、モダニズム期の作品を集めた「山梨モダン1912~1945 大正・昭和前期に華ひらいた山梨美術」展は、11月4日まで。
“Yamanashi Modern The Flourishing of Art in the Taisho and Early Showa Eras 1912-1945”, Yamanashi Prefectural Museum of Art.
山梨ゆかりの日本画の画家たち、ポスト印象派からフォーヴィスム、シュルレアリスムを変奏した洋画の画家たちが、文字通りに隣り合わせて、色あざやかに競演する。どちらの情景にも宿る山梨らしさが、甲府の街なかから臨むなだらかな山々の風景と重なる。というのも、自然風景があるところにはかならず、といってもよいくらいに、丸みのある頂をみせる山、今見てきたばかりの山によく似た山、稜線をなぞるような曲線が、描かれている。
その後、ミレー館のバルビゾン派の絵画コレクションを観ていると、そこでも、ちょうどかすかに色づきはじめた甲府盆地の繊細な樹々のある風景とフォンテヌブローの描かれた風景が重なってくる。
埴原久和代や望月春江らが、同時代の潮流あるいは伝統に学びつつも、眼の前の風景観察にもとづいた独自の作品世界を築いた画が魅力的。マリー・ローランサンと石原美登利、古賀春江とフェルナン・レジェと米倉壽仁、岸田劉生と土屋義郎、辻葦夫と手塚一夫といった、師弟関係や友情で結ばれた画家たちの作品を隣り合わせた展示構成が効果的。図録には、当時の甲州の風景や時事を伝える写真資料、画家の文章も収められている。
ミレーの《古い塀》(1862年頃)の鹿や蛙も、望月春江の《明るきかぐの木の実》(1929年)のリスも、細密な植物や果物の描写の只中に、いかにも野生の動物がたったいま飛びでてきたという様子が、可愛らしい。草創期の勝沼のワイン郷の記録映像がことのほか印象にのこり、帰りの車窓からも、民家に囲まれてはところどころにあるぶどう棚をつい探していた。